ご挨拶


このたび、第37回日本社会精神医学会を開催することになりました。本学会の前身にあたる「地域精神医学会」の発足が1967年ですので、当学会はすでに50年を超える歴史を持つことになります。この間、精神科医療を取り巻く我が国の社会の様相も大きく変化しました。人権意識の高まりをはじめとした社会的成熟が進む一方で、社会経済状況は成長から安定そして沈滞に向かい、無邪気な将来期待のもと拡大再生産的な自己実現を目指す人生は、現代社会の代表的な「生き方モデル」では無くなりつつあります。かといってポスト成長時代の次の「生き方モデル」を私たちが手にしているかといえばそうでもなく、皆が模索中、たとえるなら、たくさんの小舟が、互いに集まったり離れたりしながら、目標の港も定まらないまま、大洋に漕ぎ出していっているような状況ともいえます。

本大会のテーマは「ダイバーシティ」としました。私たちはここにいくつかのメッセージを込めています。まずは「ダイバーシティへの感度」です。精神科医療にかかわる者は、自らが支援する人々の価値観を鋭敏に感じ取り、何を目指してどんな支援をしていくのかを柔軟に判断していかねばなりません。次に「ダイバーシティの活用」です。チーム医療が常識となった現代の精神科医療では価値観の共有の重要性はよく言われることですが、むしろ価値観の違いをチーム内部に残しておくことが、多様なニーズに対して柔軟かつダイナミックに答えていく力となるのではないでしょうか。最後に「ダイバーシティへの寛容」です。精神疾患に対する偏見の克服も、異質なものを受けいれ歓迎し、異質性を楽しむ心のゆとりにかかっているように考えています。

こうした理念のもと、特別講演、教育講演、シンポジウムなどなど、ダイバースに企画してみました。ダイバーシィティ自体が予定調和の価値観となってしまわないよう、準備の入念さはほどほどに、後は、学会当日に起きる予想外の展開も楽しみにしています。

3月最初の京都は、冬の厳しさがやわらぎ桜の季節の喧噪を迎えるまでの、ひとときの穏やかな季節です。会場の京都テルサの周囲には五重の塔でよく知られた東寺を初めとし、プログラムの合間にでも散策できる名所がたくさんあります。学会での活発な討議と共に、ゆっくりと宿をとり、早春の京都をお楽しみください。

平成29年3月5日

村井俊哉 教授
村井 俊哉

京都大学大学院医学研究科
脳病態生理学講座 精神医学 教授
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